相対論がもたらした時空の奇妙な幾何学
2002,10
早川書房
アミール・D. アクゼル (著),七戸 優 (挿絵),Amir D. Aczel (原著)
林 一 (翻訳)
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相対性理論は物理学の前提を覆し、まったく新しい次元の世界をわれわれに提示した。本書はその成り立ちを、豊富な取材と歴史的な資料をもとに生々しく追ったものである。そこからは、ひとつの偉大な発見をめぐる人間模様がスリリングに浮かび上がってくる。たとえば、この革新的な理論の魅力は、ある1人の数学者を狂わしめ、未完成であった理論をわがものにしようと剽窃(ひょうせつ)まがいの行動に至らしめてしまう(驚くべきことにその数学者こそ、20世紀最大の数学者とよばれたヒルベルトである)。また、彼の理論を実験的に検証したエディントンを迎えたイギリスは、この理論を現実のものとしたのは自らの事業であるとアインシュタインを招待しないばかりか、実験成功についても彼に一切知らせずに検討会議を開き、世界に向かってその成功を発表してしまう。
本書では、神格化されていない、ひとりの人間としてのアインシュタインの姿も知ることができる。たとえば、自らの理論を実験的に実証してもらうため、ひとりの天文学者にへつらい、期待し、やがてその能力がないと知るや辛辣な態度に変ずる彼の姿や、提案した方程式に対する批判が集中し、批判を撃退しようと躍起になる姿などがみえてくる。彼もひとりの人間であったのだ。
しかし、宇宙の成り立ちについては神に近い領域で理解していたようである。彼は宇宙が膨張していることを、ハップルが天体観測の結果から発見する前に理論により予想していた。しかし、彼はそれを単純に信じず、宇宙が静的なものとなるよう理論に巧妙に手を加えてしまう。そして、そこに批判が集中するやそれを引っ込め封印してしまう。だが、彼の直感は正しかった。最近になって人類はやっと彼の直感した「巧妙なしかけ」が宇宙にあるらしいことに気づいてきた。
本書は、この最新宇宙論が示唆する宇宙の「巧妙なしかけ」についてもかなり力を入れて解説している。質のよいノンフィクションであり、また、最新の宇宙論の解説書でもある。(別役 匝)
アインシュタインの構築した理論は、第1次大戦中に「光が太陽の近傍を通るときに湾曲する」ことを予言したばかりか、20世紀末の現代宇宙論における大発見さえも予見していた。その驚異ともいえる先見性は、理論物理学者としてのアインシュタインの閃きもさりながら、リーマンをはじめとする天才数学者の、現実を超越しているとしか思えなかった高等数学に源があったのだった。一般相対論完成に至るまでのアインシュタインの人間らしい歓喜と苦悩をも最新資料を駆使して再現、数学と物理学がいりまじって創りあげる世界の魅力を余すところなく伝える、アクゼル一流のノンフィクション。
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