『宋代中国』の相対化
2009-7
汲古書院
宋代史研究会研究 編
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これまで宋代史研究会では、歴史学の成果のみに拠らず文学・思想・宗教・美術など関連諸学との交流を深めることが目指され、そこから領域横断的な新たな視点が生み出されてきた。しかし近年、唐代・元代、さらには明清時代など、他の時代史の研究を見ると、むしろ歴史学研究そのものにおいて、「中国」という空間的枠組み・「~代史」という時間的枠組みを解体し再構築することに努力が注がれ、斬新な成果を生み出して来ている。とりわけ、かつて「塞外史」とも呼ばれ「中国」から外在的なものとして見なされがちであった領域での成果は、単にそれらの領域での研究の深化というにとどまらず「中国」についての問い直しをも迫り、「ユーラシア史」「東ユーラシア」などの新たな枠組みを提示しつつある。ふりかえれば宋代はその時代的個性として、相対的に小さな領域内における文化的統一性が顕著であるとされる。それがかつて唐宋変革説の提起の段階においては、近代の国民国家に先行する様相であるとの評価もなされた。しかしそれは、他ならぬ宋代史研究会が関連諸学との交流の中で見出してきたように、科挙という官吏登用制度の社会への浸透を契機として文化的コードを共有した科挙官僚・士大夫・知識人によるものであった。彼ら同時代人の言説を批判的に検討すること、とりわけ彼らの言説が基盤とした「宋代」「中国」という枠組みを改めて検証することが、宋代史研究においてもいま求められていると思う。他時代史の成果から学べば、ここで必要とされるのは決して「宋朝と周辺王朝の交流史」のみではない。中華と周辺という根強い空間的・時間的枠組み自体を、「宋代」ならぬ10~13世紀の東ユーラシアにおいて解体し、宋朝の支配領域における国家と社会の歴史的様相を、他の政治権力の支配領域との歴史的相互関連もふまえて問い直すことこそ必要である。
『宋代中国』の相対化 ・・・・・・・・・飯山知保・久保田和男・高井康典行
山崎覚士・山根直生
Ⅰ 宋代そのものへの観点から
宋朝における中央情報の地方伝達について
――邸報と小報を中心として――……………… 久保田和男
宋代における禁謁制度の展開…………………… 宮崎聖明
宋代食羊文化と周辺国家
――北宋と遼・西夏との関係を中心に――…… 塩 卓悟
Ⅱ 他時代史の観点から
五代の「中国」と平王…………………………… 山崎覚士
「五徳終始」説の終結
――兼ねて宋代以降における伝統的政治文化の変遷を論じる――
劉浦江(小林隆道訳)
科挙制よりみた元の大都………………………… 渡辺健哉
Ⅲ 近隣諸国家の観点から
契丹国(遼朝)の宰相制度と南北二元(重)官制
………… 武田和哉
十一世紀後半における北宋の国際的地位について
――宋麗通交再開と契丹の存在を手がかりに――
………… 毛利英介
蕭妙敬と徒単太后――契丹(遼)仏教継承の一過程――
………… 藤原崇人
高麗の宴会儀礼と宋の大宴……………………… 豊島悠果
遼朝における士人層の動向――武定軍を中心として――
………… 高井康典行
稷山段氏の金元代――十一~十四世紀の山西汾水下流域における
「士人層」の存続と変質について――
………… 飯山知保
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