音で観る歌舞伎―舞台裏からのぞいた伝統芸能
2009/11/10
新評論
八坂 賢二郎
裏方の悪戦苦闘を知ると、歌舞伎はもっと面白くなる。
「座元と役者と観客が喜ぶ作品」(河竹黙阿弥)はこうして生まれている。
序幕 伝統芸能の全貌
2幕目 大和民族の音の感性
3幕目 能楽の基礎知識
4幕目 文楽の基礎知識
5幕目 歌舞伎のいろは
6幕目 音楽で魅了する歌舞伎の技
7幕目 裏方も演技する歌舞伎
大詰 裏方稼業
★「音」を意識すると、歌舞伎がもっと面白くなる!
日本の三大伝統演劇といわれている能楽・人形浄瑠璃文楽・歌舞伎は、数百年も民衆を喜ばせてきた大いなる娯楽である。それらは世界無形文化遺産にもなっていて、日本国民の大切な財産といってよい。本書はその魅力の真髄をバックステージからお伝えするものであり、それも「歌舞伎の音」をテーマに綴っている。歌舞伎の劇作者である河竹黙阿弥は弟子たちに、「座元(劇場経営者)と役者と観客が喜ぶ作品を書きなさい」と説いたという。この教えは、歌舞伎を支える裏方全体に共通するものであって、大道具、照明、音響などのスタッフたちも、役者を引き立たせ、座元と観客が喜ぶ作品づくりに精を出している。その裏方たちには苦労も多いのだが、一方では幾多の喜びもある。そのように喜びと涙と汗で創造され、進化を続けている歌舞伎の伝統技法は、内外の様々なジャンルへも影響を与えている。歌舞伎は「能楽」を親とし、「文楽」を兄として育ったようなものなので、本書ではその家系と家柄を紹介する意味で、能楽と文楽についても触れた。能楽に用いられている楽器は三種類の太鼓と笛、文楽の主要楽器は三味線である。歌舞伎は双方の楽器を基に、様々な楽器を取り込んで歌舞伎音楽を成熟させてきた。心の奥に響く三味線の音、劇場空間を清める拍子木の音、波・風・雨などを表現する大太鼓は、日本人の音に対する感性と美意識によって創造された世界に類を見ない「音」と言えよう。それに七五調の心地よいセリフなどが加わった舞台を目にしたとき、感動が生まれる。歌舞伎を観るとき、音を意識するともっと面白くなるしワクワクしてくる。それらの音が舞台裏でどのようにつくられているのかを紹介した本書によって、舞台芸術の創造に携わる人々だけでなく、観客の皆さんにも歌舞伎の音の世界を堪能していただきたい。
八坂賢二郎[ヤサカケンジロウ]
1944年栃木県生まれ。1966年から国立劇場(現日本芸術文化振興会)で、能・歌舞伎・文楽・舞踊・寄席芸能など伝統芸能全般の音響を担当。その傍ら、1991年のロンドンにおける歌舞伎版ハムレット『葉武列士倭錦絵』や1994年のウィーン・ワルシャワ・プラハ・ロンドンにおける能・文楽・歌舞伎のコラボレーション版『俊寛』など、能・文楽・歌舞伎・琉球芸能などの海外公演(15か国・22都市)にも参加(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)