明代冊封体制と朝貢貿易の研究
2008-12
新星出版
邊土名朝有
无
著者は先に「『歴代宝案』の基礎的研究」(1992年、校倉書房)の大著を上梓(じょうし)し、『歴代宝案』第1集の中から主要な文書を抽出して「常套(じょうとう)的重要語句のそれぞれの文脈における意味の特定」(あとがき)作業に精力的に取り組んできた。
続いて「琉球の朝貢貿易」(1998年、校倉書房)を世に問い、明・清両時代における中琉貿易の実態の解明に努め、中琉貿易の利益が薩摩によって搾取されたとする伊波普猷の「言説」を批判・克服することが、「著者に本書を書かせたようなもの」(あとがき)と書いている。
さて、今回の「明代冊封体制と朝貢貿易の研究」は、いわば著者の3部作とでも言うべく、琉球以外の朝貢・冊封体制下にあった「安南」(現在のベトナム)、「朝鮮」、それに「日本」をも含めて、比較史的に分析を進めている。著者から寄せられた「概略」によれば、「可能なかぎり客観的に明代の朝貢貿易とその土台をなす冊封体制を究明すべく、安南国・朝鮮国・日本国を俎上(そじょう)に載せ、明と三国の関係史料を駆使し」、「結果、著者の究明した冊封関係史と、伊波・東恩納両氏を中心とする従来のそれとの間には、天地の開きのある諸史実を探り当てることができたと自負」する、と述べている。
中琉関係史の研究は現在、伊波普猷・東恩納寛惇の時代の段階にとどまっているわけではない。
ただわたしにはこのスケールの大きい著作を具体的な内容に立ち入って批判的に検討する準備はない。自らの反省を込めて言えば、これまでの朝貢・冊封体制に関する研究は、どちらかといえば「琉球と中国(明・清)」という単線的な枠組みで進められてきたことは否めない。中国皇帝を宗主とする朝貢・冊封国どうしの横の関係(例えば琉球と朝鮮との関係)にも目を向けて、その異同点を浮き彫りにすることができれば、よりダイナミックに琉球の位置を鮮明にし得るのではないかと思う。
そのような意味でも本書は朝貢・冊封体制下の琉球の歴史的位置の解明に新たな地平を開く労作である。
(金城正篤・沖縄県歴代宝案編集委員会委員)
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