予知夢
2003
文藝春秋
東野圭吾
无
文春文庫(ISBN:4167110083)
発刊日 2003/08/10
Detail 内容:
夢想る(ゆめみる)/ 霊視る(みえる)/ 騒霊ぐ(さわぐ)/ 絞殺る(しめる)/ 予知る(しる)
お薦め度 ☆☆☆☆
お気に入り指数 ☆☆☆☆
著者は、『予知夢』の刊行時に、以下のような言葉を残しています。
『探偵ガリレオ』の第二弾。前作では専門的な道具が多く、たぶん抵抗を感じた読者も多かっただろう。
そこで本作では徹底的に、「オカルトを暴く」という部分にスポットを当てた。その分、主人公が理系の知識を駆使するシーンが少なくなってしまったのだが、それがよかったのかどうかはよくわからない。
ところで、前作、本作と発表するのと相前後して、テレビで『トリック』という番組が話題になったのには苦笑した。別にパクられたとは思わない。物理学者がオカルトを暴く――よくある話である。
『予知夢』では、予知・予見という、身近な超常現象が題材に用いられています。
また、「綱引き競争」に勝利するコツなど、生活の中にとけこんだ科学情報も、数多く盛り込まれています。
草薙のように、「俺はもう運動会に出る予定はない」と拗ねる人でなければ、興味深い記述にあふれた一冊となる事でしょう。
夢想る(ゆめみる)
女子高校生の部屋に不法侵入を試みた男が、少女の母親に見咎められて逃走し、ひき逃げ事故を起こしてしまう。
平凡な事件と思われたが、男は、少女が誕生する前からその姓名を認識していた事が判明し、捜査陣を慌てさせる。
嫌なタイプの人は居ても、悪人が登場しない物語なので、読後には切ない思いを余儀なくされます。夢想る(ゆめみる)少年の夢想が、こんなにも惨い悲劇を招こうとは―。
霊視る(みえる)
クラブのホステスがマンションの自室で殺害されたが、ほぼ同じ時刻に、全く別の場所で彼女の姿を見た男が存在した。男はホステスの恋人であった。
捜査員の間では、被害者の霊が男に事件を知らせに行ったのではないか?という声まで出始めている。
卑劣な犯罪ではあるものの、加害男性の献身的な愛情には、胸が塞がれます。石神哲哉(『容疑者Xの献身』に登場する天才数学者)のミニチュア版といったところでしょうか。
騒霊ぐ(さわぐ)
草薙俊介は実姉の頼みを断り切れず、夫が行方不明になってしまった女性の相談に乗るはめになる。ありふれた失踪事件と思われたが、彼女の夫が消息を絶ったと想像される住居に、ポルターガイストに似た現象が起る事を聞き及び―。
作品それ自体の面白さもことながら、草薙の、ラブロマンスの到来を予感させる事態にも、深い興味を覚えました。湯川がためらいがちに贈った言葉に、このコンビの、好ましい心の交流を垣間見た気分になる事でしょう。
絞殺る(しめる)
多額の借金を抱える工場主が、ホテルの一室で死体となって発見された。彼の娘は事件前夜に火の玉が飛んだと証言している。
超常現象か?それとも―。
『一射入魂』が真相の鍵を握ります。
未解決事件の様相を見せる展開ですが、謎を解明した湯川がそれを希望するのであれば、円満な結末という事になるのでしょう。
予知る(しる)
愛人女性が、相手の男性への恨み言を残して、自殺を図った。男性の部下が現場に向かうが、彼女は既に事切れていた。
目撃証言の裏付けを取るために、聞き込み捜査を行っていた所轄署の刑事達だが、事件を予知していた少女の存在を知り、驚愕する。
事態が二転三転する展開に、長編ミステリ級の面白さを満喫できますが、結末部分に登場する「予知少女」の台詞には、言葉を失った読者も少なくないでしょう。これ以上にない意外なラスト、と言えるのかもしれません。
无