肉体のアナ-キズム
2010-9-16
グラムブックス
黒ダライ児
1960年代は、世界各地で、都市化や経済成長、国際化などを背景として、それまでの支配的な近代的価値観に対する異議申し立てが、政治のみならず文化においても噴出した転換期でした。日本においても、50年代後半には、公募団体展という制度からも絵画・彫刻というジャンルからも自立した様々な実験が美術で起こり、「具体美術協会」から「もの派」までの60年代美術史は、現在につながる主要な流れとしてその重要性を認知されています。
しかし、日本各地に起こった前衛美術は、決して単線的に発展したのではなく、また欧米の抽象表現主義からコンセプチュアル・アートに至る流れに追従して展開したものでもありません。特に、読売アンデパンダン展末期の「反芸術」を淵源として起こったパフォーマンス的な表現は、都市化やテクノロジーの発展など、この時代の日本に特有の文脈に対するアンチテーゼとして生まれたものでした。美術家たちは、東京オリンピックや大阪万博を契機に日常の隅々まで統制されていく状況のなかで、身体を武器として抵抗を貫いていったのです。
本書は、日本各地において様々な美術グループ・個人美術家が行なった、これまで忘れられ、あるいは孤立し相互に無関係に見えていたパフォーマンスの実践が、総体としては美術のみならず日常生活における制度化への抵抗を継承していった事実を明らかにするものです。知られざる美術家たちの軌跡を辿り、その表現活動を当時の日本における社会・文化・政治の文脈に位置づけることで、戦後日本前衛美術史の欠落を補填する内容となっています。そして「主流」に対する「もうひとつの歴史」を提起するこのような試みは、グローバリズムの名のもとに均質化と統制がすすんでいく現在の世界に対して、新たな挑戦の可能性を思考し実践する契機にもなるでしょう。
巻末の年譜は130ページにのぼり、図版も256点収録。資料としても圧巻のボリュームです。