飛鳥高名作選 犯罪の場
2001/09
河出書房新社
飛鳥高,日下三蔵
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飛鳥高氏は'46年、旧「宝石」の懸賞小説に「犯罪の場」をもって応募し入選し、翌年同誌に掲載されてデビューした。その後も短編を発表していたが、第3回江戸川乱歩賞最終候補に残った『背徳の街』を改題した『疑惑の夜』を初長編として'58年に刊行する。'61年に発表した『細い赤い糸』が翌年第15回日本探偵作家クラブ賞を受賞、近年はずっとこの受賞作品しか入手出来ない状態が続いていた。本書は氏がかって刊行した『犯罪の場』『黒い眠り』という二冊の短編集を丸ごと収録、それに未刊行の短編四編を加えた豪華作品集である。
劇場で火事を起こし二人の犠牲者を出した男と彼を養う年上の女。犠牲者の一人を麻薬密売で追っていた刑事。彼は彼女が火事の際に持ち出したという絵に目を付ける。 『逃げる者』
上司がプレハブ実験住宅内で殺された。その鍵を持つ上司の妻と通じていた部下は、自らが疑われるものと思いこむ。現場の片隅に落ちていた二つの真珠。 『二粒の真珠』
軍隊時代の友人の実家の寺に寄宿する男。寺のそばに、かって自殺した夫人の幽霊が出るという噂があった。寺の住職が毒によって刺殺され、その死体の上には等身大の人形が。袴田もの。 『犠牲者』
元同級生の実業家にすっかり人生を支配された男。実業家の二号が住む別荘管理人として暮らしていた。その実業家が唐突に行方不明になり、会社周辺は大パニックになる。 『金魚の裏切り』
大学の研究室で学生が頭を金属で殴打されて死亡する事件。事件は迷宮入りしかかっていたが、大学教授はその現場を分析することで犯人を特定していた。 『犯罪の場』
貿易で財をなした社長が殺された。変装した犯人が忍び込むところは目撃されたが部屋の中には死体があるばかりで出入り口に鍵がかかっており脱出した形跡がない。袴田もの。 『暗い坂』
金持ちの旦那が二号宅に入ったことを見届けた強盗。一階に降りてきた女性を脅し、静かに旦那の金を奪い取った男は彼女と共謀して証拠を隠滅する。 『安らかな眠り』
不幸な境遇にある僕を養ってくれているお嬢さん。奥平という男に求婚されているが病気の弟の世話のために断っている。その弟がガス中毒で死亡した。 『こわい眠り』
刑事の隣の家に住む人気作家の妻が薬物死した。変死を疑う刑事は作家を追及。彼は旅行中だったと主張し写真をその証明のために持ち出した。 『疲れた眠り』
会社の急拡張を果たした社長は人事係長に人員整理を示唆する。それを聞いていた運転手らは自分たちが対象と知り動揺する。そして係長が宿直の翌朝殺された。 『満足せる社長』
無職の男が将棋を指しに友人宅を訪れた帰りに扼殺された。二百円もって出た男の財布には百二十円が残されていた。行きずりの殺人事件と見えたが刑事は彼の財布に札があったと証言を得る。 『古傷』
倉本の後輩の山口は、バーに勤める奈津子を争って白坂という男を殺した容疑で拘留されていた。その山口が脱走。倉本と奈津子は山口がバーに現れることを予感していた。 『悪魔だけしか知らぬこと』
戦後没落した笠寺家はかっての使用人の甲元の工場に出資。甲元の要請で資産の売却の為に三艘のボートで悪天候の中、湖を渡る途中、甲元が行方不明になってしまう。 『みずうみ』
謎の組織に雇われた骨田は現金と拳銃とナイフをKと名乗る男から受け取った。今から七十二時間の間にある人物を殺害しろというのだ。迷う骨田はとりあえず実地に赴く。 『七十二時間前』
労働事務官の加多の霊は訊問官により「お前はまだ死んでいない」と呼び止められる。なぜ彼は首を縊られ殺されたのか、彼は幽霊となって関係者に会いに行く。 『加多英二の死』
男はなぜ自分が転落しているのか理解出来なかった。泥棒に忍び込んだ時は確実に存在した工事用の棚板が、二度目に戻ってきた時には撥ね飛んでしまったのだ。 『ある墜落死』
奇抜な設計を得意とする建築家の私は、音楽堂を建築していた。コンクリート工事の終わった現場を部下と検分中、確認に出向いた事務所で私の片腕の木島が死んでいた。 『細すぎた脚』
小さい身体で土工をしていた沖山金助はあちこち立ち回った末に、遂に電器屋の長男が行う密輸入の片棒を担ぐに至る。そしてある日乾坤一擲の大勝負に挑むが。 『月を掴む手』(掴は国が國)
以上、十八編。
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