[豪華愛蔵版] 楳図かずお・イアラ
2002-10-24
小学館
楳図かずお
楳図かずおの『イアラ』は、32年前に「ビッグコミック」で連載された作品である。そのとき「ビッグコミック」編集部にいた私は、連載初回の内容に驚き、楳図かずお氏がこの先いったい何を描くつもりなのか見当もつかず、わくわくしながら次号の原稿を楽しみにしていた。そのときの私は、編集者という立場を放棄した単なる一読者、一楳図ファンでしかなかった。
ところが正直なところ、作品はこちらの理解を越えて意味不明の世界を流れて行く。『イアラ』担当者や編集長がその内容を絶賛しても、愚かな読者である私はどうにも納得できず、苛立ちさえ覚えるほどだった。
最終回の原稿を読み、その全貌を知ったとき初めて、『イアラ』という作品の衝撃性、価値をおぼろげながら理解したように思う。そのとき連載第一回から改めて読み直した記憶がある。
その後『イアラ』は、前後に書かれた短編38作品を含む大河作品として再構成され、全5巻の文庫となった。またこれは豪華本『イアラ』として2000ページを超える1冊の本にもなった。しかし当時、編集仲間や一部マニアには絶賛されたものの売れ行きは芳しくなく、今では古本屋でも見つけることは不可能な貴重本になってしまった。
TVドラマ「ロング・ラブレター」の大ヒットで『漂流教室』が話題となり、楳図かずおブームがまた起きたところで『イアラ』の再文庫化が提案された。そして2002年の夏、『イアラ』本編1冊と『イアラ短編シリーズ』3冊の文庫が発売になったのである。ところがこの過程で楳図氏ご自身の口から『イアラ・シリーズ』に関する思わぬ話が飛び出してきた。
―イアラ・シリーズとされる短編38作品は編集部が勝手に選んだもの。短編を選び直し、正しい順序に並べて真の『イアラ』を完成させたい―というのだ。
こうして編み直されたのが今回の『楳図かずお・イアラ』である。『イアラ』本編を「白日夢 Daydream」、短編集を「悪夢 Nightmare」と位置づけ、短編集には18の作品が収録されている。この18作品のうち、かつての『イアラ・シリーズ』に収録されているのは9作品。残り9作品はこれまで『イアラ』とは無縁の作品とされていたものだった。
さて、新たに選択され並び換えられた短編集を入稿し、その最終校了時に頭から全ページを読み直して初めて、この短編集が持つ衝撃性、価値に気づいた。楳図氏がその順序にこだわり、作品選択にこだわった理由を、愚かな編集者は最後の最後にやっと理解したようだ。この新鮮な衝撃をぜひ味わっていただきたい。
小学館コミックス編集室 志波秀宇